Aglaia Konrad / Desert Cities

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Aglaia Konrad(アグライア・コンラッド、1960年オーストリア・ザルツブルク生まれ)は、現在はベルギー・ブリュッセルに拠点を構え、写真に主軸を置くアーティスト。以前はオランダ・マーストリヒトのヤン・ファン・エイク・アカデミーで指導にあたり、現在はブリュッセルで教鞭を執っています。
彼女は主に欧米で個展を開催するほか、ドクメンタX(1997年)を始めとする国際的なグループ展にも参加しており、日本には2010年にトーキョーワンダーサイトでアーティスト・イン・レジデンスで滞在していました。

「大都会の都市空間」というのは、彼女の作品の中核をなすものです。1990年以降には、異なった大陸にある巨大な都市の多様性における、戦後の都市の景観やそこのあらゆる兆候を調査してきました。

1992年にエジプト・カイロでの短い滞在のなかで、彼女は「Desert Cities(砂漠の都市)」の存在を知り、後に長期間に渡るプロジェクトへ発展することになるこの都市の、とてつもないスケールに興味を引きつけられました。そして、社会地理的・政治的な観点から、環境の変化によって引き起こされる多くの疑問に向き合うために「Desert Cities」プロジェクトを立ち上げることになりました。

モノクロ写真とカラー写真を織り交ぜながら、何もない砂地に建造物が立ち並び、道路が敷設され、あたかも砂漠のオアシスのように都市が形成されていく過程を追っていきます。建造物の外観からは、装飾を排したモダニズム 建築の系譜が伺えるのですが、ほとんどひと気のない都市に突如あらわれる建造物はまるでブロックのおもちゃのような佇まいで、浮世離れした色彩も相まって気味な印象を与えます。
外来の模範と土地特有の要素、建造物と遺跡、現代性と伝統。相反するものの狭間で行われる対話にフォーカスを当てていくと、砂漠の都市がいくら変貌を遂げたとしても、結果として世界中にありふれた景観が生まれているという逆説的な現実を突きつけられます。
クラシックな建築写真でもドキュメンタリー・フォトでもないアプローチで、アーティストとして長い年月をかけて何度も現地に赴き、めまぐるしく変化を遂げる都市の姿を目の当たりにした者としての視点が、本書を通じて浮き彫りになることでしょう。

印刷された紙の選出からは、デザイナーのMevis & Van Deursen(メーフィス&ファン・ドゥールセン)によるデザイン的に優れた采配が見て取れます。一面は写真プリントのように光沢があり、多くの読者にとって遠く離れた異国の情景を鮮明に描写しています。そうかと思えば、ページをめくった裏面はザラザラとした紙になっていて、まるで砂漠の砂埃を連想させる。異なった紙質の反復が、砂漠の都市の現状をあらわすための相乗効果を生み出しているのです。

Aglaia Konrad / Desert Cities
JRP|Ringier
236 Pages
Images 83 color / 94 b/w
Softcover
230 x 310 mm

English
ISBN: 978-3-905829-59-4
2008

PRINTED MATTER: The Marzona Collection at the Kunstbibliothek

Added on by Yusuke Nakajima.

Egidio Marzona(エジディオ・マルゾナ)は、特にミニマル/ランド/コンセブチュアル・アートの領域における随一のコレクターとして広く知られています。1960年代以降、持ち前の鑑識眼を頼りに作品を収集し、アート界との繋がりを深めてきました。

2002年以降、彼の壮大なコレクションは[The Marzona Collection]としてベルリン美術館に収蔵されました。欧米のアーティスト約150名によって1960~70年代に制作された600点を超えるアートワークは、現在はthe Nationalgalerie(ナショナルギャラリー)とThe Kupferstichkabinett(プリントとドローイングの美術館)で保存されています。

彼のコレクションのうち、印刷物に関してはKunstbibliothek(アート・ライブラリー)に寄贈されました。
書籍、マルチプル、カタログ、雑誌、リーフレット、インビテーションカード、ポスター、レコード、フィルムやビデオテープ、手稿や手紙、ビデオスチル、展覧会やイベントにまつわる写真など…。約50,000点のアイテムが厳重な管理のもと、現在もこの施設内に保存されています。

印刷物となったアートワーク、特にアーティスト自らがデザインした展覧会ポスターやインビテーションカードは、あくまでアートの周縁的ポジションのアイテムとして扱われてきました。高いクオリティで仕上げられているのにも拘らず、これまで(ほんの一部の例外を除いて)アートとして展示されることはありませんでした。
本書では、印刷物のコンセプト、形や素材における差異や多様性に着目し、本来の魅力に迫っています。

氏が言うことには、「アーカイブは、アートワークそのものに近い、あるいは同等に重要なものである。わたしは、それを何かとても生き生きしたものとして捉えている。『素材』という観点が、わたしの心を頻繁に占拠するので、それで完全に満たそうとする。そこで分類や整理をする。そうしてようやく、アーカイブはただのルール、インフォメーション、分類のシステムなどではなく、実質性や美を備えたものであるということを悟るのだ。」

本書では、ミニマル・アート、アルテ・ポーヴェラ、ランド・アート、コンセプチュアル・アートとジャンルに応じた章の編成のもと、独英のバイリンガルテキストとコレクションの図版とを織り交ぜて紹介しています。アーティストにまつわる印刷物を類型立てて検証していくことで、アートピースに引けを取らない重要なアイテムとしてみる視点を養えそうです。

PRINTED MATTER: The Marzona Collection at the Kunstbibliothek
Berlin : Kunstbibliothek Staatliche Museen zu Berlin
178 Pages
Softcover
190 x 240 mm
German / English
ISBN: 3-88609-521-5
2005

Francisca Mattéoli / Escales autour du Monde

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言わずと知れたファッション・メゾン、Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)。
1854年にトランクメーカーとして創業し、先行く時代を見据えた画期的な素材選びや高いクオリティを誇るものづくりによって信頼を集め、その名を世界に馳せていきました。

創始者の孫にあたる3代目のGaston Louis-Vuitton(ガストン・ルイ・ヴィトン)は、さまざまな分野に造詣が深く、また生涯にわたり旅人であったと言われています。
少年時代から博識なコレクターだったガストンは、数多くのトランク、また書籍や印刷物といった旅にまつわる古い品々を骨董商や競売で入手しました。なかでも特にホテルの利用客のトランクに貼られるホテルのラベルステッカーの収集はその数3,000点を超え、圧倒的なコレクションであったことが伺えます。
本書は、ガストンが個人的にコレクションしていたラベルを多数収録しています。

20世紀前半といえば、まだ旅が限られた富裕層のための特別なものでした。「ホテルのプロモーションを狙ってゲストの荷物に貼り付けられたラベルは、その持ち主の旅がいかに素晴らしいものであったかという証になる」というエピソートは、非常に興味深いものです。色とりどりのグラフィックワークは時代感がよくあらわれており、一世紀を経た現在のわたしたちからみても魅力的に映ります。

世界的に著名なホテルから日本の老舗ホテルまでと豪華なラインナップのなかに、知っているホテルを見つけるとつい嬉しくなる。
ラベルから今まで訪れたことのない場所を想像し、まるでそこへ訪れたかのような気持ちになる。
そうやって、読者にも旅の高揚感をもたらします。

重厚感のある焦げ茶のハードカバーで綴じられた本は、ホテルロゴで構成されるコラージュを配した厚みのある小口が目を引きます。
コンセプトをブックデザインへと丁寧に落としこみ、完成度の高い1冊となりました。

参考文献
http://jp.louisvuitton.com/jpn-jp/articles/gaston-louis-vuitton-collector

Francisca Mattéoli / Escales autour du Monde
Éditions Xavier Barral
512 pages
Hardcover, full-format
165 × 240 mm
ISBN : 978-236511-012-9
2012

Karel Martens / Reprint

Added on by Yusuke Nakajima.

オランダはグラフィックデザインの実践の場が多く、また充実した教育環境があることから、豊かな土壌が形成され、結果として世界的にみても目覚ましい活躍をするグラフィックデザイナーをこれまでに多数輩出してきました。
そのオランダでは3年に1回、タイプフェイスの領域で大いに貢献した書体デザイナーや活版技術者へ[the Gerrit Noordzij Prize](ヘリット・ノールツァイ賞。伝説的なタイポグラファーのヘリット・ノールツァイに由来する)を授与しています。2012年には、タイポグラフィを専門とするグラフィックデザイナーのKarel Martens(カレル・マルテンス)が受賞しました。
これを機に、2015年にオランダ・ハーグのKABK: Royal Academy of Art, The Hague(ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ)で開催された展覧会にあわせて本書が出版されました。

彼はこの道54年のキャリアのなかで、クライアントから依頼されたコミッションワークのほかにも、自主的に実験的な制作を続けています。
代表作のひとつは、既成の印刷物のうえに、日常的に目にする工具の部品などの「ファウンド・オブジェクト」を象ったさまざまな形状のシルエットを重ねて印刷したシリーズです。印刷を重ね合わせた部分が下の印刷面を覆うことはなく、まるで色付きのセロファンをかざしたときのように透過しています。発色のいい彩りが目を引くばかりか、単色刷りの色を重ね合わせることで新たな色が生まれるという、印刷の本質に迫るアプローチは独自性が高く、一度観たら忘れられません。

彼の受賞に際しては、38年に渡りグラフィックデザインの領域で教鞭を執り、後進の育成に積極的であったことも一因となりました。本書の制作にあたり、デザインの面で彼らの学生たちともコラボレーションしています。

参考文献
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 第321回企画展 KMカレル・マルテンス
 

Karel Martens / reprint
Roma
84 Pages
170 x 240 mm
ISBN: 9789491843310
2015

Annette Messager / Continents noirs

Added on by Yusuke Nakajima.

Annette Messager(アネット・メサジェ、1943年生まれ)は、フランスを代表するアーティストです。
ドイツ・カッセルで開催されるドクメンタをはじめとする名だたる国際展にも参加していますが、なかでも2005年の第51回ヴェネツィア・ビエンナーレにフランス館代表として出展した際には、金獅子賞を受賞しました。
2008年に東京・六本木の森美術館で、日本では初となる大規模な個展が開催されたことが記憶に残っている方もいるのではないでしょうか。
直近ですと、2015年には大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレへの参加が決まっています。

彼女は1970年代前半以降、本格的に作品の制作を始めました。写真、ドローイング、刺繍、動物のぬいぐるみ(剥製)など、日常的によく目にするようなあらゆる素材を巧みに織り交ぜて作品を構成していくインスタレーション作品で知られています。
物語性を帯びバリエーションに富んだ作風に見受けられますが、遊び心のある無邪気さと残酷さといった相反する要素が共存し、心をかき乱すような緊張感を孕んでいる点に共通項を見出すことができます。

本書は、2012年10月から2013年2月にかけてフランスで開催された、彼女の個展にあわせて出版されました。
ジョナサン・スウィフトによるガリヴァー旅行記の世界から間接的にインスパイアされて制作された本作は、SFやファンタジーを彷彿させるような表現で、一種の哲学的物語や政治的寓話のような現代世界が抱える悪を描写しています。
シリアスな緊張感は彼女の嘲笑に対する愛着や遊び心によって活性化され、鑑賞者へ幼少時代の世界を喚起させることでしょう。

趣向を凝らした造本も見逃せません。
腰のない紙を用いて袋とじ製本されたページに混じって、所々に油紙のような材質の薄い紙が挟まっています。この茶色い紙越しに、隣り合わせたページのビジュアルが朧げに透けてみえるようすは、彼女の作品が醸し出す不穏な心もとなさを物質的にも表現しており、本という形態で作品をみるときには非常に効果的な演出になっています。

Editions Xavier Barralは、研ぎ澄まされた美意識はもちろん、デザイン・編集の面での細やかな工夫の積み重ねにより「オブジェとしての本」を手がけていると自負していますが、そうした彼らの指針が端的に顕在化された1冊に仕上がっています。

参考文献
森美術館 アネット・メサジェ:聖と俗の使者たち


Annette Messager / Continents noirs
Éditions Xavier Barral
96 Pages
295 × 242 mm
French / English
ISBN: 978-2-36511-011-2
2012

Ryan Gander / Heralded as the New Black

Added on by Yusuke Nakajima.

本書は、イギリスのアーティスト、Ryan Gander(ライアン・ガンダー)の作品集です。
2008年にイギリス・バーミンガムのイコンギャラリーののち、サウス・ロンドン・ギャラリーへと巡回した彼の個展にあわせて制作されました。

彼は持ち前の「収集癖の素養」で、過去に存在した歴史的・文化的な関連性や他のアーティストの作品の要素を変容させ、新しい表現へと適応させることに長けています。鑑賞者と作品との対話を願い、その実現のために美術史や映画撮影、物語の構造を駆使して制作を進めていきます。
とはいえ、作品の背景にあるストーリを決して明かさず、作品自体が説明をすることもありません。鑑賞者が各々それらを繋げ合わせることで成立させるように促し、一見異なる要素をあらゆる方法によって組み合わせることによって、新たな文脈や意味をもたらします。

こうしたコンセプチュアルな作風は、ともすると難解な印象を与え、図らずも敷居が高いと敬遠されてしまうことになりかねません。そうした障壁を払拭するために、本書では非常に興味深いデザインアプローチが採用されています。
その手法とは、全ての図版ページを観音開きにし、観音が閉じられた状態では作品の説明文のみが記され、観音を開くと作品図版が表れるという仕組みです。終始このスタイルで一貫して展開されるコンテンツは、バラエティに富む各々の作品を端正にまとめあげることに成功しています。
単に外見的な理由だけで奇抜な造本にしているわけではなく、その根底には「より的確に視覚伝達をする」という狙いが存在していることは特筆すべき点です。その結果、機能と美しいデザインとを兼ね備える完成度の高い作品集が完成しました。

Ryan Gander / Heralded as the New Black
Ikon Gallery
137 Pages
21 x 29.4 cm
English
ISBN: 978-1904864370
2008

Formafantasma

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Formafantasma(フォルマファンタズマ)は、イタリア出身で、現在はオランダ・アムステルダムを拠点にするSimone Farresin(シモーネ・ファレジン、1980年生まれ)とAndrea Trimarchi(アンドレア・トルマリキ、1983年生まれ)の2者によるデザイナー・デュオです。

2007年にイタリア・フィレンツェのデザイン系大学ISIAで知り合い、在学中からコラボレーションワークを展開し始めます。その後修士号取得のためにともにオランダのDesign Academy Eindhoven(デザイン・アカデミー・アイントホーフェン)へと渡り、卒業後に同地でデザインスタジオを設立、後にアムステルダムに拠点を移し現在に至ります。

こうした経歴をもつ彼らのデザインは、イタリアのセンスが光るスタイルに、コンセプチュアルな奥行きのある実にオランダらしい感覚を伴った素材の使い方とが見事に調和しています。
フェンディ、ドローグを始めとする錚々たるクライアントを抱え、またMoMAを筆頭に世界中の名だたる美術館に作品が収蔵されていることからも、彼らの活動が注目に値することがわかります。
日本では、2014年11月にCIBONEでの企画展に参加したことが記憶に新しいことでしょう。

本書は、2014年にオランダ・デンボス市立美術館で開催された彼らの展覧会にあわせて出版されました。

自らの役割を「クラフト・産業・モノと、ユーザーとを繋ぐ架け橋」であると自覚する彼らの首尾一貫した作風の背景には、素材への関心の高さがあります。
例えば、溶岩を再び溶かしてつくった鏡やガラス、テキスタイル。魚の皮や動物の皮革を植物性なめしで処理してつくったスツールやテーブルウェア。動植物から抽出される天然の樹脂をニスにして制作された「未来のプラスチック素材」を使ったテーブルウェア。土に還る素材でつくられた食器。
いずれも明確な指針をもち、表現力に富んだ方法で素材をデザインに活用しています。


伝統や職人技術、またローカルな手工芸に対して敬意を抱き、持続可能性や文化的な導線ということを念頭に置いたうえで、入念なリサーチと実験を重ねることを厭いません。歴史的・政治的・社会的な力を視野に入れつつ、そこに彼らのニュアンスが加わることで、現代社会において意義深い作品に仕上がっています。


参考文献
CIBONE EXHIBITION: 03
 

Lecturis
176 Pages
Paperback
16.5 x 22.5 cm
Dutch / English
ISBN: 9789462260566
2014

Candida Höfer / Düsseldorf

Added on by Yusuke Nakajima.

Kunstakademie Düsseldorf(クンストアカデミーデュッセルドルフ、国立デュッセルドルフ芸術アカデミー)は、1773年にドイツ・デュッセルドルフに創立された芸術大学。Joseph Beuys(ヨーゼフ・ボイス)、Nam June Paik(ナムジュン・パイク)を筆頭としたフルクサスの活動が盛んだったことや、ゲルハルト・リヒターをはじめとする世界的にも活躍するアーティストを多数輩出していることで知られています。
多くのアーティストにとっての学び舎であり教鞭を執ってきたこの伝統的なアカデミーでは、1976年以降には写真家のBernd and Hilla , Becher(ベルント&ヒラ・ベッヒャー)夫妻が写真クラスを開設し、教壇に立ちました。初期メンバーはAndreas Gursky(アンドレアス・グルスキー)、Thomas Ruff(トーマス・ルフ)、Thomas Struth(トーマス・シュトゥルート)といった面子が揃います。師匠のタイポロジー(類型学)的アプローチの薫陶を受けた彼らは総じて「ベッヒャー派」と称され、ドイツ現代写真界にとって欠かすことのできない存在です。

この初期メンバーのひとり、Candida Höfer(カンディダ・ヘーファー、1944年ドイツ・エーベルスヴァルデ生まれ)。彼女はその研究において、彼女自身が直に接したり、数えきれないほどの旅行のなかで見つけたモチーフに対して、たとえそれが単一のオブジェだったり、建築空間や人々であろうと、敬意を示したうえで適切な距離を保ってきました。彼女は被写体の威厳さを損なわないようにして写真に収めます。

 

1968年当時のリバプールの人々や1970年代のドイツに移民したトルコ系の外国人労働者のポートレイトは、ほとんど叙情的さはなく極めて冷静な視点から見つめることで、その場の空気感がありありと伝わってきます。

 

室内空間、図書館、美術館、エントランスホールといった公共の場で撮り収められた写真にはほとんど人影がなく、無機質な客観性と建築の構造やディテールをつぶさに捉えた点を特徴としています。線対称の構図を積極的に採用し、光の使い方や入射を巧みに生かしながら、絵画とも見紛うような、あたかも魔法にかかったかのような光景を映し出し、観る者の目前に迫ります。

 

本書は彼女にとってなじみ深いデュッセルドルフを皮切りに、オーストリア・リンツ、スイス・ルツェルンを巡回した個展にあわせて出版されたカタログです。
彼女の作品群と並んで、1960年代後半から70年代前半にかけて撮影されたセルフポートレイトや、近しい人々との団欒のようすもあわせて収録されており、彼女の人となりを垣間みることのできる貴重な一冊に仕上がっています。

 

Candida Höfer / Düsseldorf
richter|fey
140 pages
120 color plates and 35 b/w plates
Paperback, thread-stitched
22.8 x 29.8 cm
ISBN: 978-3-941263-62-8
2013

Please Come to the Show

Added on by Yusuke Nakajima.

昨今、インターネットの発達とともに、情報は格段に速く・広範にわたり届くようになりました。それでもなお、印刷物による発信が絶大な効果を発揮するのも事実です。
視覚的に強いインパクトを与えること。
ビジュアルや文字情報が紙面に定着して留まっていること。
手書きで一言添えるなどの工夫によって、受け手に向けてよりパーソナルな伝達ができること。
気に入ったものを保管しておく、すなわちコレクションできること。
ざっと挙げるだけでも、さまざまな長所があります。

展覧会の告知についても、印刷物は欠かすことのできないツールです。具体的にはインビテーションカードやフライヤー、ポスターといったものが挙げられますが、これらは総じてエフェメラ(=「儚いもの」の意味)と呼ばれます。
アーティストやギャラリスト自らにより直筆のメッセージが添えられていたり、制作当時の印刷技術や紙が実例として残されているエフェメラは、アート愛好家のみならず、グラフィックデザイナー・キュレーター・美術史家という各方面の専門家からしても非常に貴重なアーカイブです。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)ライブラリーの書誌学者であるデイヴィッド・シニアは、1960年代以降に制作された展覧会にまつわるエフェメラの多種多様なアーカイブから厳選したものをもとに展覧会[Please Come to the Show]を企画しました。初めは同館内で展示され、のちにイギリス・リバプールのExhibition Research Centreに巡回し、その際に本書が出版されました。
MoMAの所蔵するコレクションから実物の複写がフルカラーで収録されている本書は、何気なくばらまかれたエフェメラを丁寧に所蔵し続けてきた行為の積み重ねの賜物であり、さらに時の経過を経てなお一層その価値を高めることにも繋がっていると言えるでしょう。

Please Come to the Show
Edited by David Senior
Occasional Papers
160 Pages
Paperback
19 x 25cm
English
ISBN 978-09569623-7-9
6/2014

herman de vries & susanne de vries / the meadow

Added on by Yusuke Nakajima.

herman de vries(ヘルマン・デ・フリース、1931年生まれ)は、オランダ・アルクマールで生まれ、1970年以降はドイツ・エッシュナウに拠点を置き、植物や土といった自然のなかに存在するものを用いて作品を制作しています。
造園土木を学び、フランスで農業に関する仕事、のちにオランダの植物保護事業に従事し、1953年より作品の制作活動を開始しました。
彼はアーティストであるとの自覚はなく、自身のことを「自然の代弁者」と述べています。
その方法は自然に介入するのではなく、そこにある美しさをより見えやすくするような、自然に対する敬虔の意を感じさせる作品群です。
2015年に開催されるヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展にオランダ代表として参加することが決まっています。

本書は、エッシュナウにある彼と妻スザンヌの草原で、
季節とともに自然が移ろいでいくようすを28年間に渡って静かに見つめ、印象的に捉えています。

 

一見すると、春夏秋冬はただ繰り返しているようにもみえていますが、
そのなかでも生命は入れ替わり、わずかながらも着実に変化を遂げています。
自然の営みに寄り添うようにして暮らす彼だからこそ、それをあるがままに映し出すことができるのです。

 

 

herman de vries & susanne de vries / the meadow
Lecturis
320 Pages
linen hardcover
24 x 16.5 cm
German / English
ISBN 978-94-6226-045-0
11/2013

Walter Niedermayr, HG Merz / "Station Z": Memorial Sachsenhausen

Added on by Yusuke Nakajima.

20世紀前半は、2度に渡る世界大戦が象徴するように、残忍な行為の絶えない時代でした。
特に悪名高いのは、ヒトラー率いるナチスの無慈悲な振る舞い。ヨーロッパ各地に強制収容所を設け、戦時中にはその壁の内側で被収容者に対する非道な行為を施していきます。

ドイツ・ベルリン北部に設置されたザクセンハウゼン強制収容所の跡地には、追悼の意を込めて記念施設・博物館があります。
その中心に位置するのが、SS(ナチス親衛隊)によって使用されていた[Station Z]と呼ばれる火葬場です。

廃墟となったこの土地に、ドイツの建築家HGメルツ(1947年生まれ)が抽象的な防護施設を設計し、1998年から2005年にかけて建設されました。
この建築物は、かつての火葬場からそのまま残されていた基礎を保護する、また訪問者に黙想の場を提供するという目的のもとに手がけられました。
半透明なシェル形状の内部空間にフォーカスすることで、囚人たちの絶望的な状況を例証しています。

日本の建築事務所SANAAの手がけた建築を被写体にして、その構造に対する巧みかつユニークな解釈を提示したことで評価の高い、イタリアの写真家Walter Niedermayr(ウォルター・ニーダーマイヤー、1952年生まれ)。
彼は決して華々しさはないが極めて印象的な方法で、この場所の悲痛や歴史的な記憶を写真を通じて描写しています。

全てのビジュアルが観音開きの状態で収録されている装丁からも、隠蔽されていた無惨な出来事のその裏側を紐解き、しっかりと見つめていくような緊張感が演出されています。
ニーダーマイヤーならではのハイキートーンと薄曇りの空が相まって、現代の情景にも拘らず半世紀以上前に刻まれた追憶と重なるような不思議な感覚が芽生えてきます。

本書のプロローグとして、1995年に当強制収容所の解放50周年を記念して行われた、ポーランドの作家で、以前この被収容者であったAndrzej Szczypiorskiによるスピーチが収録されています。また、HGメルツによるエピローグは、この設備の歴史や過去数々の受賞歴のある今日の建築物についての見解が述べられています。

Walter Niedermayr, HG Merz / "Station Z": Memorial Sachsenhausen
Hatje Cantz
64 Pages
Softcover
25.8 x 33.6 cm
German, English, Polish
ISBN 978-3-7757-2397-8
2009

Rachel Whiteread / Catalogue

Added on by Yusuke Nakajima.

Rachel Whiteread(レイチェル・ホワイトリード)は、イギリスをリードする現代彫刻家のひとりです。
1963年にロンドンで生まれ、ブライトン大学でペインティングを、その後スレード・スクール・オブ・ファインアートで彫刻を学びました。
1993年に彫刻作品”house”で注目を集めることになりますが、これはロンドンのイースト・エンドにある立ち入り禁止になっているテラスハウスの室内空間にコンクリートを流し込み、原寸大のレプリカにしたもの。建物の内部空間を可視化した作品は、「空白/余白を可視化する」というのちに確立される彼女のスタイルの礎ともなりました。同年にはターナー賞を受賞しています。
それから徐々に国際的な賞賛を獲得するに至り、欧米でパブリック・ワークを手がけるようになりました。

 

本書は2008年にガゴシアン・ギャラリーで開催された彼女の展覧会にあわせて出版されました。
石膏、顔料、樹脂、木材、金属を用いて制作された作品群も根底にあるコンセプトには忠実ながら、カラフルに彩られているうえに中には半透明なものも混じっているからか、白い石膏で形成された重厚感のある他の作品群と較べると軽やかでポップな印象を与えます。
この色の効果は絶大で、初めて作品を目の当たりにする彼女の作品とは親和性の低い鑑賞者に対しても、作品への興味を引き出す余地を持ち合わせているように感じます。

 


ランダムに配置された展示台や什器に展示された作品は、彼女を含みその同年代のイギリスの現代美術作家を総称するヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)の精神性、すなわち既成概念を壊すような革新的かつ予想だにしないような作品を発表しつづけるスタンスとも相通じるものがあります。
 

 

Rachel Whiteread / Catalogue
Gagosian
68 Pages
26 x 30.5 cm
English
ISBN 1-932598-84-7
2008

2041

Added on by Yusuke Nakajima.

[2041]は、ある人物がイスラム圏の女性が身につける衣装「ブルカ」に興味を持ち、その衣装を身につけて撮影したセルフポートレートをまとめた本です。

「ブルカ」の特徴は、頭から足の先まですっぽりと覆われていて、さらに目の部分まで布で隠されています。2041と名乗る男性は、そのブルカを身につけポーズをする写真をSNS上に投稿し続けます。さらにブルカから発展し、自作のブルカ、フードを被って顔を隠しただけといった、ブルカ的な装いへと徐々に変化していきました。

さまざまなシチュエーションで撮影されている写真を見ていても、顔が隠されてしまっているので常に匿名性を帯び、写っているのは同一人物であるにも関わらず被写体のことを想像する余地が全く生まれまれません。元々は宗教上の理由や、砂漠という気候に適した服装として生まれた衣装が、機能を削がれて人物像を覆い隠すだけのものとなってしまった結果、人物像を何も写さず、セルフポートレートにも関わらず写されることを拒否しているかのような不穏なポートレート作品が生まれました。

覆い隠された状況は、ホンマタカシの新作[VAIROUS COVERED AUTOMOBILES]の被写体となっているカバーのかかった車にも共通しています。本来はホコリや汚れを避ける目的で掛けられているカバーですが、その状況だけが切り取られると、不穏な光景へと一転します。シルエットから車種をある程度想像ができても、カバーの下にある車のことは知る由がなく、見られるのを拒否している状況とも言えます。日本ではありふれた光景で、基本的には駐車スペースに収まっているため不穏さに気がつきませんが、下の写真のように普通ではあり得ない場所でこの光景を見たとき、覆われるということによって生じる不可解さが理解できます。

外国では車は汚れるものとして扱われているか、汚したくない高級車を所有している人はきちんとガレージを持っているので、日本で良く目にする車にカバーのかかった状況は外国にはほとんどありません。そのため、日本でカバーのかかった車を見た外国からの訪問者は、ブルカを被ったポートレートを見て私たちが不穏に感じるのと同じような感覚を抱いている人も少なからずいるのでしょう

「覆い隠すことで生じる状況」というのは、それぞれの作品の孕んでいるコンセプトの一部ですが、[2041]とホンマタカシ[VARIOUS COVERED AUTOMOBILES]、根底に共通したテーマを持っている兄弟作品としてぜひ合わせてご覧ください。

2041
HERE PRESS
120 pages
Softcover 
36 x 29 cm
limited edition of 500 copies

Koto Bolofo / I Spy with My Little Eye, Something beginning with S

Added on by Yusuke Nakajima.

Koto Bolofo(コト・ボロフォ)は1959年に南アフリカで生まれ、イギリスで育ちました。ヴォーグ、ヴァニティ・フェア、GQといったファッション誌の誌面作りにも携わるほか、ベルリンやヴェネツィアの国際映画祭でショートフィルムを制作しています。また、エルメス、ルイ・ヴィトン、ドン・ペリニヨンといった錚々たるメゾンの広告キャンペーンを手がけることでも知られています。

彼はドイツを拠点とする出版社のSteidl社とも関係が深く、これまでに同社から数々の写真集を出版してきました。
代表作には、エルメスの工房に立ち入ることを許された初めての写真家として、工房の内観や職人たちの作業風景を撮り収めた[LA MAISON]、言わずと知れたイギリスの高級車ロールス・ロイスから全権委任され、丹精なクラフトマンシップに焦点を充てた[Rolls-Royce]が挙げられますが、いずれも上質で気品のある被写体をただ闇雲に撮影しているのではなく、緻密な作業の積み重ねによって生み出される不朽の魅力を印象的に捉えます。
その真髄を余すことなく写し出す写真は美しく、うっとりと優雅な気持ちにさせてくれることでしょう。

 

確かな腕と審美眼に支えられた彼の写真は、どうやらSteidl社の創設者であるゲルハルド・シュタイデル氏のお眼鏡にもかなったようです。ボロフォは、Steidl社の社屋を訪れ、その内部を撮影しました。


Steidl社は社内に全ての生産機能を持ち、編集、デザイン、印刷から製本、流通まで、本にまつわる工程を一括して自社で手がけ、年間約200冊ほどのペースで出版しています。その数字だけ聞くと精力的な活動であることは瞭然ですが、実は約35名程度で運営しているそう。少数気鋭の集団だからこそ意思疎通がスムーズに進み、無駄なく作業を遂行していくことができるのです。

 


1冊の本をつくるまでには、計り知れないほど数々の試練が待ち構えているだろうというのは想像に難くないでしょう。プロフェッショナルとしての心意気がにじみ出る真剣なまなざし、時折みせるユーモアを交えた表情。いずれも公に開かれていない作業現場ゆえに普段は表立ってみえてこないけれど、裏で本の誕生を支える重要な一幕です。
昨今「つくり手の顔がみえること」を良しとする風潮がありますが、手に取ったこの本は一体どんなひとたちによって形づくられたのかというのがみえるだけで、一層愛着がわくのではないでしょうか。

 

 

Koto Bolofo / I Spy with My Little Eye, Something beginning with S
Steidl
Book / Hardcover
29 x 37 cm
English
ISBN 978-3-86930-035-1
03/2010

Roman Singer / VERNISSAGE

Added on by Yusuke Nakajima.

1938年スイス出身のRoman Signer(ロマン・シグネール)は、今日のヨーロッパにおいて最も注目されているアーティストのひとりです。手がける作品は彫刻、インスタレーション写真、ビデオなど多岐にわたりますが、いずれも得体の知れない風変わりな作風という点で一貫性があります。
コムデギャルソンの1988年春夏の広告では、長靴から水が溢れ出るイメージビジュアルが起用されましたが、この印象的な作品もシグネールによるものです。

本書は、シグネールが70歳の誕生日を迎えたことを記念して出版されました。
1973年以降に開催された彼の展覧会にあわせて制作された、インビテーションカード(案内状)や広告といった印刷物のなかから150点を厳選して収録しています。

展覧会を告知し、集客を図る目的で作成されるインビテーションカードは、単に情報を記載した印刷物というだけではその役割の一部も担えていない。一目見ただけでその展覧会に興味を引き、実際に足を運んでもらうように仕向けることがねらいです。シグネールの場合、作品の素材や表現方法がその都度異なるので、当然インビテーションカードに掲載されるイメージビジュアルも様変わりしますが、カードを作成する際には判型やレイアウト、フォントに至るまで作風に応じて選んでいるようです。
毎回趣向を凝らして制作されたインビテーションカードが時系列に編集された本書のページをめくっていくと、年代ごとにシグネールが何に関心を寄せていたか、そして感受性をどのように発揮していたのか、その変遷がみてとれます。ある意味、作品と同様、あるいはそれ以上に、彼ならではの美学が端的にあらわれているといっても過言ではないでしょう。

一方で、こうしたカードの類いは、エフェメラ(「儚いもの」の意味)という呼称からもわかるように、すぐに捨てられてしまう宿命もあります。しかし、時を経てある程度まとまった数が集結すると、その価値は十分に高まります。
現代美術史におけるミニマムな史料という観点からしても、本書のように一連のインビテーションカードのアーカイブをまとめるということは、とても意義深いことです。

 

Roman Singer /  VERNISSAGE
Scheidegger & Spiess
324 Pages
Hardback
30.5 x 24 cm
English and German
ISBN 978-3-85881-224-7
2008

John Pawson / Katalog

Added on by Yusuke Nakajima.

1949年にイングランド北部のヨークシャーで生まれたJohn Pawson(ジョン・ポーソン)は、ミニマリズム建築の第一人者。装飾的な要素を限りなく削ぎ落した建築物やプロダクトのデザインを手がけています。
実家の家業であるテキスタイルの仕事に従事した後に来日し、数年間ほど英語を教えていました。倉俣史朗のスタジオを訪れたことがきっかけで東京へ移住し、彼に師事します。そこで経験を積んだ後、イギリスへ帰国し、建築の名門であるロンドンのAAスクールで建築を学び、1981年に独立しました。

これまでに住居やギャラリー、修道院をはじめ、マンハッタンにあるカルバンクラインの旗艦店や香港の航空会社・キャセイパシフィックのラウンジまで、幅広い案件を手がけてきました。
直近だと、ザハ・ハディトとともにロンドンのデザインミュージアムの改築を任されています。
空間・プロポーション・光・素材といった基本的な要素に対する純粋なアプローチにより、一貫性のある見解を提示します。


本書は2012年にミュンヘンのピナコテーク・デア・モデルネで開催された彼の個展にあわせて出版された展覧会カタログです。チャコールグレーの表紙にモノトーンの文字が配置されたブックデザインにも、彼らしいミニマリズムがあらわれています。

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序盤では、彼の未完成ないし現在進行中の住居の模型が収録されていますが、黒い背景ということも相まって、潔いほどに無駄のないファサードの佇まいが際立ちます。


中盤は、教会やチャペルの作品群が続きます。外観だけではなく、その内部空間の写真を織り交ぜていることで、いかに彼の建築物が光を効果的に取り込めるのかというのが伝わってきます。


終盤になると、これまでに手がけたプロダクトが登場します。鍋やカトラリーなどの食にまつわるアイテムからキャンドルスティックまで、素材や用途もさまざまですが、それぞれがシャープで隙のないデザインという点で共通した部分を見出せます。

John Pawson / Katalog
Buchhandlung Walther König
128 Pages
Hardcover
17.5 x 24.5 cm
English and German
ISBN 978-3863351496
2012

Karl Lagerfeld / Shopping Center

Added on by Yusuke Nakajima.

世界の名だたるメゾンが開催するファッションショーは、来るシーズンのコレクションがいち早くみられるというリサーチの場である以上に、独自の世界観を存分に発揮するエンターテインメントとしても多いに注目されています。
なかでも、シャネルのデザイナーである Karl Lagerfeld(カール・ラガーフェルド)は、ショーのために徹底的につくり込まれた空間を出現させ、圧倒的なスペクタクルで観衆を魅了することで知られています。
毎度趣向をこらし、想像を遥かに上回る壮大な演出が会場を埋め尽くすようすは、関係者だけではなく社会的にも話題になるほどです。

そんな彼の2014/15秋冬のプレタポルテコレクション、会場のキャットウォークには突如「シャネル・ショッピングセンター」があらわれました。
棚にはシャネルの象徴的なダブルシーのマークが印字された食品パッケージが整然と並び、先シーズンのコレクションテーマを取り入れたアイテムが所狭しと収められています。ふたつとない魅惑的なマーケットで、モデルたちは次々とアイテムを手に取ってはショッピングカートへ入れていきます。
こうしたオリジナルの製品と並び、真空パックされたハンドバックや南京錠をモチーフにしたジュエリーといった、シャネルの真骨頂となるアイテムもお目見えします。

普段スーパーマーケットの陳列棚にありふれたアイテムも、シャネルのマークが付された途端、そこに付加価値が生まれます。
資本主義的な社会のあり方に対する皮肉が込められたアイディアは、揺るぎないシャネルのブランド価値があってこそ、ユーモアのある演出として功を奏するのです。

 

Karl Lagerfeld / Shopping Center
Steidl
94 Pages
Paperback / softback
18 x 26 cm
English
ISBN 978-3-86930-815-9
01/2015

Pots by Steve Harrison

Added on by Yusuke Nakajima.

イギリスの陶芸作家・Steve Harrison(スティーブ・ハリソン)は、25年以上のキャリアのなかで、マグカップや水差しなど、日々の暮らしに彩りを添える美しいアイテムを数多く手がけてきました。

なかでも、陶土が溶け出したところに窯へ塩を入れる「ソルトグレーズ」という手法を用いることで知られています。ソルトグレーズは焼成の段階で釉薬と塩とが科学反応を起こし、丈夫で光沢のあるガラス質の表面が表れます。いかんせん仕上がりが予測不能なために多くの陶芸家が敬遠するのですが、彼はふたつとして同じものができないこの手法を敢えて選び、予定調和ではなし得ない創作に醍醐味を感じながら制作をしています。

 

およそ12年ほど前、ソニア・パーク氏が世界中のインテリアを紹介する雑誌に掲載されたSteve氏の作品を目にしたことで大きな衝撃を受けた彼女はその直観に従い、すぐに本人とコンタクトをとり、程なくしてロンドン郊外の彼の工房を訪れました。
数々の素晴らしい陶芸作品にすっかり魅了されたソニア氏は、その後自身が立上げるARTS&SCIENCE(A&S)で取り扱えないかと依頼します。その提案をSteve氏が快諾、こうして長きにわたるパートナーシップがスタートしました。

A&Sではこれまでに3回、彼の個展を開催しました。また、A&Sとしては初の試みである食堂[DOWN THE STAIRS]では、提供される料理は彼の食器に盛りつけられています。
どんな素晴らしいものでもただ店頭に並べるだけでは、その良さは充分に伝わりきらないものです。実際に使用できるシーンを演出をすることで、作品の本質を引き出すことに繋がっています。

 

本書は、2014年晩秋に開催されたSteve氏の個展にあわせて、彼にとって初めての作品集として出版されました。
作家自身が大切に保管しこれまで人目に触れてこなかったコレクション、そしてソニア氏の厳選されたプライベートコレクションなど、貴重な作品が多数収録されています。

陶磁器の食器は、手に触れられるだけでなく実際に使用できるという強みをもっています。しかし、それを本のなかに集約するとなると、重量や質感といった実物から直に感じ取れることがどうしても伝わりにくい。
この解決策として、本書ではほぼ実寸でビジュアルを収録しています。それにより、釉薬の風合いや細部のディテールが際立ち、そのたたずまいが孕む品格を余すことなく捉え、適切に伝えています。

 

作品を生み出す創作者とそれを伝える媒介者として、両者がともに歩んできた軌跡をたどるようなアーカイブに仕上がっています。

 

Pots by Steve Harrison
ARTS&SCIENCE
192 Pages
Hardback / Clothbound
15.5 cm x 20.5 cm
ISBN 978-4-9908020-0-4
2014

Takashi Homma / NEW DOCUMENTARY

Added on by Yusuke Nakajima.

米TIME誌が選ぶ写真集のベストブックは、その年に出版された選りすぐりの写真集が名を連ねることで定評があります。
2014年は、TIME誌の写真担当エディターのほかに、キュレーターや写真に特化した出版社といった写真の専門家たちにより、27の写真集が選出されました。
イギリスを拠点とした出版社・MACK(マック)の創設者であるMichael Mack(マイケル・マック)は本書を選出し書評しています。

「建前上はふたつの展覧会を網羅するカタログだが、この写真集は昨今出版されたなかで最もオリジナルで、エレガントな構成とデザインを併せ持つものだ。インスタレーションの写真と実際の作品をコラージュしており、緻密なイメージは作家自身の足跡を紡ぎ、分岐した物語を組み立てる。この写真集の唯一の欠点は 500部しか出版されないことだ。」(マイケル・マック)
※日本語訳:between the booksの記事より抜粋

 

 

ホンマタカシの自身初となる美術館での個展「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」は、金沢21世紀美術館を皮切りに、東京オペラシティ アートギャラリーを経て、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館へと巡回する大規模な開催でした。
美術館での初個展ということではもちろん、各会場でそれぞれの展示構成がなされたことでも話題となりました。

最後の巡回地となった丸亀展では、これまでの会場とは大きく異なる点として、一連の作品シリーズが時系列に沿って展示されました。
同時進行で制作された別々のシリーズが時間軸をもとに配列されると、別個に独立していた作品同士が図らずも隣り合わせになり、観る側へ新たな視点が与えられます。
特に[Tokyo and My Daughter]の少女が年月を経るごとに成長していくようすが、同時期に発表した作品と並んで展示されていると、何とも言えない感慨深いものがあります。

 

 

2014年に開催されたグループ展「拡張するファッション」に参加した際には、1990年代当時に発表したファッション写真の作品を現在の視点で再構成しました。
ドキュメンタリーフォトの手法で従来のファッション写真に新風をもたらしたことは日本の写真界においても衝撃的な出来事でしたが、当時の世相をリアルに捉えた作品は、約20年を経た現在のわたしたちに対してもなお鮮烈な印象を与えます。

 

参考文献・画像転載
between the books

Takashi Homma / NEW DOCUMENTARY
SUPER LABO
192 Pages
Hardback / Clothbound
18.9 x 24.9 cm
ISBN 978-4-905052-72-2
Edition of 500 copies
2014

Anjès Gesink / Vogels huilen niet (Birds don't cry)

Added on by Yusuke Nakajima.

2012年以来、ドキュメンタリー写真家のAnjes Gesink(アンエス・ヘシンク)は、オランダ・ロッテルダムにあるバードサンクチュアリ[Vogelklas Karel Schot(ヴォーゲルクラス・カレル・ショット)]でボランティアをしています。
ここにはありとあらゆる種類の鳥たちがすっかり衰弱した末にやってきます。その経緯は、例えば建築物に接触したり、釣り糸に絡まってしまったりとそれぞれですが、往々にして人間の営みがもたらした弊害により困難に苛まれています。しかし、このサンクチュアリにたどり着いた鳥たちは、人間の手によって保護され、回復へ向かいます。
彼らを痛めつけるのも、その傷を癒すのも人間というのはとても興味深いことです。

ヘシンクはここで鳥の世話をしながら、写真を撮り続けてきました。ムクドリからハクチョウ、タカとその種類はさまざまですが、いずれもこのサンクチュアリで保護されたという点で共通しています。

どのポートレイト写真にも手袋をはめた人間の手が映り込んでいますが、これは人間による保護を象徴している一方で、都市部における鳥の生命に対する人間の影響というものを暗に表現しています。
人間の手が鳥に添えられているというシチュエーションは心温まるかと思いきや、その手が素手ではなくゴムという無機質な素材で覆われているだけで、両者の間には取り払うことのできない隔たりが確かに存在することを意識させます。

最低限の文字情報と白背景で大きく写真がレイアウトされた本書を見ても、まさかこのシリーズには「都市部での鳥と人間との共存」という深遠なテーマがあるとはまず思わないでしょう。
しかし、インパクトを与えるレイアウトで一旦注意を引き、結果として興味をもってもらうという仕掛けになっています。
難解なことをいかにシンプルにして相手に伝えるか。その意思疎通を手助けするうえで、効果的な視覚伝達を用いるというアプローチは、まさにオランダらしい方法だと言えます。

本書には都市生態学者でありサンクチュアリの長であるAndré deBaerdemaeker(アンドレ・デ・バーデマーカー)による寄稿が収録され、サンクチュアリでの出来事に関して言及しています。

Anjès Gesink / Vogels huilen niet (Birds don't cry)
Lecturis
144 Pages
Paperback
22 x 28 cm
Dutch
ISBN 978-94-6226-062-7
2014