しばしば「カラー写真の父」と謳われるWilliam Eggleston(ウィリアム・エグルストン、1939年 アメリカ・テネシー州メンフィス生まれ)は、約60年のキャリアを通じて、その土地特有の主題と、色・形・構図にあらわれる天賦の洗練された知見とを巧みに結びつけ、非凡なスタイルを確立してきました。
エグルストンの80年代に撮影された「The Democratic Forest」シリーズの集大成として、2015年にSteidlより10冊組のボックスセットが出版されました。
(参考:http://post-books.info/new-arrivals/2015/11/19)
彼の熱狂的なファンも垂涎するほどの豪華な仕様の本セットは、確かに内容の充実度は折り紙付きなのですが、いかんせんフルボリュームのためにおのずと価格帯も高くなってしまうことがネックでした。
「より多くのひとに向けてこの圧倒的な大作の世界に触れられる機会が設けられないか?」と思っていた矢先、2016年秋に本シリーズから68点の優れた作品を抜粋した選書が出版されました。
本書をめくると、一点一点がマスターピースといっても過言ではないほど、気迫のある作品が連なっています。撮影当時である80年代アメリカならではの空気感がひしひしと伝わってきます。
これまでのSteidlの出版における歩みをみていくと、単一の写真(集)シリーズを基盤として製作し、ゆくゆくはオフカットや未公開作品を余すことなく収録するフルボリュームセットを製作するという「拡張型」の流れを多く見受けます。しかし、エグルストンの「The Democratic Forest」シリーズに関しては、フルボリュームの魅力をぎゅっと凝縮して一冊に編纂し直すという「収縮型」のプロセスが踏まれています。
書籍編集の方法は実に多様で、編集の段階で定められたベクトルの向きによって、書籍の内容だけでなくその一冊がもつ意義さえも変化していくのです。
William Eggleston / The Democratic Forest. Selected Works
Steidl
120 pages, 68 images
Hardback / Clothbound
29.8 x 31.1 cm
English
ISBN 978-3-95829-256-7
10/2016
7,200円+税